【桑・絹ラプソディ(後編)】村長選に立候補者202人!!|つむぐ〜 結城紬Stories 〜 vol.03

この記事は、小山高専の歴史専門の長峰氏が小山市地域協力隊の依頼を受け、小山市工業振興課 結城紬振興係のご協力のもと執筆。
『小山市民の半分が「結城紬って◯◯だよね」と話ができるようになる』ことを目標に、結城紬などについての小話を連載しています!

つむぐ〜 結城紬Stories 〜

 戦後、昭和29(1954)年に小山町と大谷村が合併して小山市が誕生、昭和40(1965)年の桑絹町の小山市編入によって現在の小山市が成立します。しかしこの合併の流れのなかで、もめにもめたのが絹地区でした。それは昭和35 (1960)年の村長選に立候補者202人(!)という「珍事」に発展します。 

昭和28(1953)年の「町村合併促進法」により、全国的に町村合併が進められました。 

栃木県は桑村と絹村の合併を進めようとしますが、とくに歴史的に(そして「結城紬」的に)結城市とのつながりが深い絹村南部はこれに反対し、茨城県結城市との越境合併を希望しました。 

(『小山市史 通史編 Ⅲ』より) 

 ここで、「桑村と絹村の合併後に、結城市との合併を希望する地区(絹村南部)だけが結城市と越境合併をする」というアイデアが浮上します。ちょっと長くなりますが、関係者の言葉を聞いてみましょう。 

栃木県

「南部地区が真に結城市に合併を希望するならば、桑村との合併後に境界変更等の措置を講ずるよう研究すべき。」 

結城市

「絹村の議会において合併を議決してくれれば、その受け入れについては相当努力する。」 

絹村

「全村一致で結城市合併を決議することは困難である。一部境界変更で行くほかほかないと思われる。」 

じつに臨場感のある記録です。当時の熱気や緊張感が伝わってくるようですね。 

こうして昭和31 (1956)年、両村は合併して桑絹村が誕生しました。

『小山市史 通史編 Ⅲ』より

さまざまな「すったもんだ」があったわけですが、昭和35 (1960)年、当時の村長死去にともなう村長選挙の際に分村派(絹南部)は奇策を打ちました。前代未聞の 「有権者全員立候補」作戦です(最大時でなんと、267人!)。抗議の意味をこめて、そして世間の注目を集める目的もあったのでしょう。 

最終的には202人が立候補したそうです。それにしてもすごい数です。ただ、村長選は事実上3人で争われ、旧桑村の分村反対派の候補者が勝利し、分村派の候補者は3位に終わりました。 

こうした事態を受け、国も動きました。自治省から、結城市合併派地区の大部分を結城市に越境編入させるという調停案まで出たのです。 

『小山市史 通史編 Ⅲ』より
『小山市史 通史編 Ⅲ』より

しかし、分村運動はだんだん煮詰まっていきます。財政的にも立ちいかなくなった分村派は昭和37(1962)年についに運動の終結を決議しました。


以上が桑絹村における「分村運動(結城市への越境合併運動)」の顛末てんまつです。

現在から見れば、それはたしかに「珍事」に見えます。しかし、絹地区と結城(市)が共有した歴史に思いをはせれば、当時の人々にとってこの問題が、本当に笑い事ではなく、とてもとても深刻であったことがひしひしと伝わってくるのです。

とても興味深い数字があります。「田園環境都市おやまビジョンづくりに向けた小山市11地区の風土性調査 絹地区」によれば、「日常的買い物」の行先は結城市が67.5%(小山地区(駅西)は7.2%)、「休みの日の特別な」行先はやはり結城市が43.9% (小山地区(駅西)は37.5%)だそうです。いまなお、絹地区と結城市の結びつきが強いことがよくわかりますね。


小山市と結城市の結びつけているものは数多くあると思いますが、やはりその一つは結城紬でしょう
なかでも絹地区は、現在は当然ながら栃木県小山市なのですが、歴史・文化的には、そしてとくに「結城紬」的には結城市(下総国だったけど茨城県/常陸)と深く深く結びついています。

小山と結城、下野と下総/常陸がオーバーラップする、ある種のトランスボーダーな空間である絹地区に(そして桑・絹という地名そのものにも)、私は何ともいえない魅力を感じてしまうのです。

参考文献
落合住好『小山市の村の歴史 桑地区編・絹地区編』2016年
小山市史編纂委員会(編)『小山市史 通史編 I–Ⅲ』小山市、1984–87年
小山市史編纂委員会(編)『小山市史 史料編 近世I』小山市、1982年
坂入了ほか『結城紬』泰流社、1982年
下都賀郡絹尋常高等小学校(編)『絹村郷土史』1911年
菅間久男『小山市の地名由来と歴史』随想社、2006年
野口実(編)『小山氏の成立と発展:軍事貴族から中世武士の本流へ』戎光祥出版、2016年
松本一夫『小山氏の盛衰:下野名門武士団の一族史』戎光祥出版、2015年
結城市史編纂委員会(編)『結城市史 第4–6巻』結城市、1980–82年
選挙ドットコム「 「俺、村長やります!」「わたしも!」「わしも!」村長選に202人出馬!本当にあった村長選大量立候補事件の真相」(https://go2senkyo.com/articles/2016/01/05/13233.html)

落合住好さんの『小山市の村の歴史 桑地区編・絹地区編』という本は小山市中央図書館で出会ったものです。なんと、非売品で初版5部。大変な労作で、素晴らしい本だと感動しました。小山における知的探求の営みに触れ、とても興奮・感動しましたので紹介させていただきます。

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大好評!連載中

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